JFS-BやHACCPなどの第三者監査・審査を受けた後、最も担当者を悩ませるのが「不適合(指摘事項)に対する是正処置報告書の提出」です。
「担当者をきつく指導しました」「手順書を壁に貼り出しました」「清掃を徹底します」と書いて提出したのに、監査員から「それは是正処置になっていません」「根本原因は別にあるはずです」と突き返されてしまった経験はありませんか?期限が迫る中、これ以上どう書けばいいのか分からず、頭を抱える品質管理担当者は非常に多いです。
本コラムでは、監査員が本当に求めている「是正処置」の考え方から、審査を一発でクリアするための「原因分析」と「水平展開」の技術を、具体的な例文を交えて分かりやすく解説します。
是正処置報告書が突き返される最大の理由は、「修正」と「是正処置」を混同していることにあります。この二つは、食品安全マネジメントシステム(ISOやHACCP、JFS規格など)において明確に区別されています。
「修正」とは、今起きている問題(不適合)をとりあえず取り除く、その場しのぎの応急処置のことです。
監査員から見れば「ゴミを拾うのは当たり前」です。「よし、直したから合格」とはなりません。なぜなら、明日また同じようにゴミが落ちる可能性が高いからです。
「是正処置」とは、その不適合が起きた「根本的な原因(ルート・コーズ)」を突き止め、二度と同じことが起きないような仕組み(再発防止策)を作ることです。
なぜ床にゴミが落ちていたのか?「担当者の意識が低かった」ではなく、「ゴミ箱の配置が悪くて捨てにくい」「作業スピードに対して清掃の時間が割り当てられていない」「そもそもゴミが発生しやすい包材を使っている」といった「仕組み(システム)の欠陥」を見つけ出し、そこを改善することが求められているのです。
是正処置を書く上で欠かせないのが、トヨタ生産方式などでも知られる「なぜなぜ分析」です。「なぜ?」を繰り返すことで、個人のミスという表面的な理由から、組織や仕組みの欠陥という根本原因へと深掘りしていきます。
例えば、「重要管理点(CCP)である加熱工程で、温度記録の記入漏れがあった」という監査の指摘事項への回答を比較してみましょう。
【原因】担当者のAさんが忙しくて、うっかり記録に記入し忘れてしまったため。
【対策】Aさんをはじめ、製造スタッフ全員に「必ず記録を書くように」と厳しく指導・再教育を行った。現場にも注意喚起のポスターを貼った。
これは典型的な「個人の不注意」に責任を押し付けただけの回答です。人間の注意力には限界があるため、監査員は「厳しく指導したところで、また忘れるよね?」と判断して絶対に不合格(再提出)とします。
【なぜなぜ分析】
なぜ記録漏れが起きた? → 担当者が加熱作業の直後に記録用紙の場所まで移動できなかったから。
なぜ移動できなかった? → 加熱終了後、すぐに次の鍋の準備に取り掛からなければならない作業ダイヤになっていたから。
なぜそのようなダイヤになっている? → 【根本原因】人員配置と作業設計上、記録に割くための標準時間(1分間)が組み込まれていなかったため。
【是正処置(再発防止策)】
作業工程表(ダイヤ)を見直し、加熱作業間に「記録・確認」のためのインターバル(2分間)を必ず設けるようルールを変更した。また、記録バインダーの配置を加熱釜のすぐ横にフックで吊るす形に変更し、歩行移動せずにその場で即座に記録できるよう動線(ハード面)の改善を行った。
このように、「精神論(気をつける)」ではなく「仕組みと環境(ルールや設備)」を変えるアプローチこそが正しい是正処置です。
完璧な是正処置を提出しても、もう一つ監査員から確認されるポイントがあります。それが「水平展開(横展開)」の有無です。
加熱工程で起きた記録漏れのエラーは、冷却工程や金属探知機の工程でも同じように起こる「仕組みの欠陥」を含んでいないでしょうか?
「今回の原因は他の工程でも起きるリスクがないか検証し、全工程の記録確認のタイミングとバインダー位置を同時チェックし、同様の改善を実施しました」と一言添えるだけで、監査員のあなたに対する信頼度は劇的に跳ね上がり、システムの継続的改善能力が高く評価されます。
まとめ:監査員は「ミスを責めたい」わけではない
監査員が指摘事項を出すのは、会社を落としたいからではありません。その会社が抱える「潜在的なリスクの火種」を自ら気づき、自浄作用(自らシステムを改善する力)を発揮することを期待しているからです。
不適合は「会社を良くするためのチャンス」です。表面的な修正で終わらせず、根本原因にメスを入れることで、より強く安全な製造体制を築き上げましょう。
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